Archive for 2009年8月12日


[第14回] いまどきの吸血鬼が映し出す米国社会
宮家あゆみ Ayumi Miyake ニューヨーク在住ライター・翻訳者

米国はいま、新たなヴァンパイアブームだ。ケーブルテレビ局HBOで08年9月に始まった吸血鬼ドラマ「トゥルーブラッド」が、第2シリーズに突入した現在も高視聴率を維持している。同年11月には、ステファニー・メイヤーによる少年少女向け人気シリーズ小説『トワイライト』が映画化され、大ヒットを記録。若者を中心に熱狂的なファン層を生み出し、ハリー・ポッター以来の社会現象ともなった。映画の続編となる「ニュームーン/トワイライト・サーガ」は、米国では今年11月20日から公開予定だ。今回のフィクション部門リストには、なんと3冊もヴァンパイア小説がベスト10入りした。現代アメリカならではの吸血鬼本を3冊紹介したい。

まず、7位のシャーレイン・ハリス著『Dead and Gone』。スーキー・スタックハウスが主人公となるサザン・ヴァンパイア・シリーズの9作目で、前述のドラマ「トゥルーブラッド」の原作である。物語の舞台は現代の米国南部。
吸血鬼は社会的に認知されてマイノリティーながらも人権を得ているという想定だ。オオカミ人間やヒョウ人間など動物に姿を変えられるシェイプシフターや、魔女も登場。吸血鬼向けの飲み物(トゥルーブラッド)や、テレビの吸血鬼専門チャンネルも存在し、米国の日常生活の吸血鬼版がコメディータッチで描かれる。

主人公のスーキーは、人の心を読む能力を持つ妖精で、普段は酒場でウエートレスとして働いている。ヒョウ人間の義姉が何者かに殺され、スーキーは妖精社会の抗争に巻き込まれる。ヴァンパイアに続いてオオカミ人間たちが自分たちのアイデンティティーを人間社会にカミングアウトしたことによってヘイトクライム(憎悪犯罪)が起き、ヴァンパイアとシェイプシフターの間にも偏見や差別が存在するなど、米国社会が抱える問題を映し出すようなエピソードも多い。そして、欠かせないのが魅力的な男性吸血鬼たちとのロマンス。ヴァンパイアから生き血を与えられる場面は特にセクシーだ。スリラー、ミステリー、コメディーの要素がちりばめられたヴァンパイア・ロマンス小説の王道作品といえる。

1位のローレル・ハミルトン著『Skin Trade』も、ヴァンパイア・ロマンス小説として高い人気を得ているアニタ・ブレイク・シリーズの17作目。スーキーと同様、主人公の女性アニタは吸血鬼ではないが美しい容姿の持ち主。罪を犯したヴァンパイアを処刑するヴァンパイアハンターで、死者を一時的に蘇生させる能力を持っている。凶悪な連続殺人犯ヴァンパイアからアニタの元に人の首が送り届けられる。捜査のためラスベガスに飛んだアニタは、残虐なトラ人間たちと対決する。恋人のヴァンパイアとのロマンスも描かれるが、前作までと比べると、ミステリー的色彩が強い。

一説によれば、アメリカでの昨今のヴァンパイア人気は60年代後半の反体制運動に端を発しているという。新しい若者文化の誕生のなか、究極のアウトサイダーとしてのヴァンパイアがクールな存在となり、ポップカルチャーに浸透したという説だ。また、ヴァンパイアの描かれ方は時代を反映する。かつては恐ろしい存在だったヴァンパイアは、いまや美形でセクシー、性格が良く、同時に暗さもあわせもつ、10代から20代のあこがれの対象となっている。

9位の『The Strain』は、ロマンス的要素を排除したスリラー・ミステリー小説で、上記2冊とは一線を画した骨太な作品だ。06年末公開の映画「パンズ・ラビリンス」で翌年のアカデミー賞にもノミネートされた、メキシコ出身の映画監督ギレルモ・デル・トロの小説家デビュー作であり、作家チャック・ホーガンとの共著。ヴァンパイア対人間の戦いを描いた3部作の1作目となる。

物語は、ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港に着陸したボーイング777型機の機内で突然、異変が起きるところから始まる。生物テロの可能性を視野に入れ、機内に乗り込んだドクター・グッドウェザー率いる捜査員たちは、血の凍るような光景を目にする。一方、ニューヨークのスパニッシュハーレムで質屋を営む、かつては教授でありホロコーストの生存者アブラハム・セトラキアンは、その異変に気づいていた。ヴァンパイア・ウイルスの感染拡大を食い止めるため、セトラキアンとドクター・グッドウェザーが手を組み、マンハッタンの地下鉄構内でマスター・ヴァンパイアとの戦いに挑む。

緊張感のある場面が次々と出てきて、映画を見ているような錯覚に陥る。
物語は完結せず、続編が待ち遠しくなる。当初、3シーズン限定のドラマシリーズとしてテレビ局に構想が持ち込まれたが、経費がかかりすぎるのと、コメディーではないという理由で断られ、著者の長年の夢だった小説として出版された。デル・トロ監督は多忙だが、映画化を期待したくなる作品だ。
米国のベストセラー(フィクション部門)

2.は『タイタニックを引き揚げろ』の著者のNUMAファイル・シリーズの新作。ミクロネシア諸島近海で米国政府が極秘に進めていた生物医学研究内容が何者かに奪われる。

3.は予算削減のあおりを受けてロサンゼルス・タイムズ紙を追い出される寸前の記者が、自らのキャリアをかけ、殺人事件を追うノンフィクションの執筆を決意。殺人罪に問われ収監中の16歳の麻薬ディーラーが犯人ではなかったことを知る。

4.の舞台は1937年の上海。裕福な家庭の中国人姉妹が、父親の事業失敗で、中国人花嫁を探しにきた米国人に売られ、渡米する。著者は中国人を曽祖父に持ち、中国文化に造詣が深い。

5.はニューヨークのソーホーのロフトに住み、女性フォトグラファーとして活躍する主人公がクリスマスに仕事先のロンドンで、アイルランド系米国人の人気作家と恋に落ちるというロマンス小説。

6.は元米国軍人ジャック・リーチャーが主人公となるシリーズの13作目。
ニューヨークの地下鉄車内での事件が、ワシントン、カリフォルニア、アフガニスタンへと展開する、息もつかせぬサスペンスストーリー。

8.はウィメンズ・マーダークラブ・シリーズ8作目。サンフランシスコの富豪宅のパーティーで起きた著名人カップルの殺人事件。女性警視リンゼイ・ボクサーが活躍するスピード感にあふれるミステリー作品。

10.はミネアポリス市警警部ルーカス・ダベンポートが主人公となるシリーズの19作目。08年、ミネソタ州セントポールで開かれた共和党大会を舞台に繰り広げられるサスペンス小説。

ネットと家族はどちらも大事――細田守、サマーウォーズを語る

8月2日、アップル直営店の「Apple Store Ginza」で行なわれたトークイベント「第13回 月刊インタラ塾」。テーマは「サマーウォーズに見る、ネットとアニメのコミュニティ論」だ。

ゲストは、8月1日に公開されたアニメ映画「サマーウォーズ」を監督した細田守氏、ネット社会評論書「アーキテクチャの生態系」著者の濱野智史氏、そして「ハバネロ・暴魔大戦」のデザインを手がけた、クリエイティブディレクター兼アートディレクターの鈴木克彦氏だ。

「サマーウォーズ」は、主人公・小磯健二が、インターネットの中で起こる世界的な危機に対して、奮闘する物語。田舎の大家族のリアルなつながりと、世界中の人とのインターネットを介したヴァーチャルなつながりが描かれる。
細田守監督「サマーウォーズ」より。今月1日から全国で公開中

公開翌日ということもあり、立ち見が出るほど盛況なイベントだったが、ただのイベントではない。リアルタイムのストリーミング中継を行ない、Twitterの書き込みを会場のスクリーンに映し出すことで、ゲストと視聴者を繋げるというものだった。

トークショーは映画の冒頭で描かれる、デジタル仮想都市「OZ」の導入シーンの放映から開始。「映像とデザインについて」「つながりについて」「人物造形について」「コミュニティと物語について」という四つのテーマに沿って進められた。

(C)2009 SUMMER WARS FILM PARTNERS

ネットのイメージは「黒」ではなく「白」

―― そもそも細田さんは、OZのイメージは何かを参考にされたのですか? 白いインターフェースのイメージはどこから?

細田 僕の作品には以前から、このOZのような白い球体空間を出しているんですね。「時をかける少女」のタイムリープ空間や、「SUPERFLAT MONOGRAM」※1のルイ・ヴィトン空間のイメージですね。

そもそもは「デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム」で初めて、インターネット=白い球体空間ですよっていうイメージを出したんです。

それが共通して白いのには理由があって、それまでの映画やアニメで描かれるネットやハイテクのイメージって黒なんですよ。黒い中に緑やオレンジな線が走る……。

濱野 「マトリックス」はまさにそうですよね。

細田 自分が子供に向けてインターネットって世界を出すとき、そういうおどろおどろしい、カッコイイけど危険な雰囲気とは、全く逆のものにしたかった。そのときデジモンをみている子供達には、危ないサイトに行ってほしくなかったんですね(笑)。

だから、黒に対して白とか、かわいいものを使った子供のためのインターネット空間をイメージして、それがこの白い球体空間に至るんです。

―― ブラックサイトに対する、白い世界ともいえますよね。

細田 「サマーウォーズ」のOZは、設定として、世界中で10億人がアカウントを取得している、そういう世界なんです。10億人というと、小さい子から老人までがアカウントを取得しているのですが、きっと「マトリックス」のようなサイバーなイメージでは、10億人も会員が集まらないと思うんですよ。子供達や女性が入ってきやすいような世界じゃないといけない。

―― 大学時代から細田さんを知ってらっしゃる鈴木克彦さんに細田映画のデザインの素晴らしさをお聞きしたいのですが。デザイナーの視点からどうですか?

鈴木 今日は、細田の応援演説にきたので(笑)。細田の映画の特徴はなにかというと、デザイン。情報がてんこ盛りな映画なのに、画面に映し出される映像の情報整理の仕方がうまい。デザイナーの目から見てもすごいなと思う。

それと、緻密な描写と、デフォルメの両立ができていること。ものすごくリアルなんだけど、幻想的な、誰の記憶の中にもあるような景色(の描写)が上手い。だから「細田守の描いた夏」というのはみんなの心に残るんだと思う。バーチャルを作るときには、逆にリアルさを追求するんですよ。

アニメとネット、コミュニティの重なりは

―― 濱野さんにお聞きしたいのですが、私がネットの仕事を始めてから、アニメのコミュニティとネットのコミュニティが重なると感じるのですが、それはなぜですか?

濱野 これはあれですよね、なぜネトオタ(ネットオタク)とアニオタ(アニメオタク)は同じ「キモオタ」なのかってことですよね(笑)。これは、身も蓋もないことをいえば、現実と離れているからですよね。今回「サマーウォーズ」で面白かったのは、「アニメ」という写真とも映画とも違う虚構の世界の中で、OZという虚構の空間を表現したことでした。

細田 これはアニメを作ってる側からの発言なんですが、以前、アニメのイベントに参加したことがあるんです。そこで、アニメ好きな人たちに呼ばれているはずなのに「この人たちは本当にアニメが好きなのかな」って感じたんです。

それよりも、アニメをネタにしてみんなとしゃべりたい、誰かとコミュニケーションをとりたい、アニメはそのネタになってるだけなのではないか。話題は別にアニメじゃなくてもいいんじゃないかって感じるんです。僕なんかは、本当にアニメが好きでこの仕事をしているので、一種さみしさを感じますね。

濱野 いま細田監督がおっしゃったような人々が、オタクと自称する人々の中にワラワラいるわけです。私が調査していると、今の若い世代は、みんなテレビを見ないで、ニコニコ(動画)やYouTubeばかりを見ている。

動画サイトではアニメをネタとしたもの(動画)が多いので、アニメがメインストリームの文化と感じている若者も多い。その意味では、アニメ的なものを見るということが、コミュニケーションの種になりやすいといえるんじゃないかと思います。

「時かけ」みたいな高校時代を経験したわけじゃない

―― 「サマーウォーズ」の主人公は若者=高校生ですが、細田監督は「サマーウォーズ」を製作にあたって、今の高校生を気にしますか? それとも自分の高校時代を考えてですか?

細田 「時かけ」なんて作ると、よく「細田さん、いい高校生時代をご経験されたんですね」と言われますが、そんなわけないじゃない(笑)。体験したら映画なんか作らない。そういう意味では、自分の体験からのリソースは何もないわけですよ。

自分の高校時代からは作れないけど、なるべく、今の高校生がどんなふうに生きているのか、何を考えているのかは一生懸命考えます。でも、キャラクターデザインの貞本義行さんとも話しますが、結局高校生の気持ちにはなれないんです。それでも彼らに寄り添って書きたいという気持ちはありますね。

―― 貞本さんの名前が出ましたが、「サマーウォーズ」の人物造形についてお聞きしたいと思います。そもそも存在しないキャラクターをどのように作られて、外見的なルックスを付与していくのですか?

細田 シナリオに即して貞本さんと相談していくんですが、(キャラクターデザインだけでなく)シナリオにも人物造形がある。主人公にしてもどういう性格なのという人物造形かあるわけです。実は、シナリオを作るときに話すことと、キャラクターデザインで話すことって、ほとんど同じ。

それよりも話さなければいけないのは、その人物が現実にいるとすれば、どういう人か。それを僕と、キャラクターデザイナーとシナリオライターが、共有することが大事。そうすれば、具体的な外見の要素とか台詞というのは、シナリオライターなりデザイナーさんが書いてくれるわけですし、貞本さんの右手から生まれてくるキャラクターは、そのままそのキャラクターなんですよ。

―― 鈴木さんはキャラクター広告を手がけていらっしゃいますが、広告におけるキャラクターとはどのようなものですか?

鈴木 細田のキャラクターをみると、キャラクターからではなくて人物の設計が先にあってそれをキャラクターにしている感じがするじゃないですか。広告は逆に、先に商品がある。

僕は長く広告を続けていきたいと思いますが、長く続けるコツは「商品と同等のイメージをもつキャラクターを作ること」と考えてます。それが出来れば、3年から5年は(キャラクターの展開が)続くだろうと。

暴君ハバネロだと「凄い辛いけどうまみがある」という商品の体現化です。デザインをしていると、そのキャラクター(=商品)と性格が一致して、ああ出来たなと思う瞬間がある。

個々の好きなものより、普遍的なストーリーを探すのが大事

―― 「サマーウォーズ」は、一方でオンラインのつながり、一方で家族のコミュニティが存在する、特殊なテーマ設定だと思います。「サマーウォーズ」はずばり何の物語ですか?
会場にはTwitterの画面も映し出された。「@intarajyuku」と送信宛先(@)をつけた発言のタイムライン(発言一覧)が表示され、細田監督に聞いてほしいことのリクエストや、トークイベントへの感想が気軽につぶやかれていた

細田 「サマーウォーズ」って映画は、デジタルのコミュニケーションと、家族のコミュニケーションが出てきます。大概、ネットのコミュニケーションが仮初めで、家族のコミュニケーションが本物だと語られがちです。

かと思えば、まったく逆の、親戚なんて面倒くさいコミュニケーションよりも、見知らぬ他人とコミュニケーションとれるほうがいいですよ、とも一方では言われています。(「サマーウォーズ」では)どっちが良くて、どっちが悪いという話にしないと、最初から決めてたんです。

濱野 何の「物語」ということではなくて、二つのありがちな「物語」を宙吊りにするということですよね。

細田 そうですね。ネットの物語でも家族の物語でもなく、その両方を同じ意味合いにしたい。いま、まさに僕らが置かれている状況自体が、どっちを捨ててどっちをとるという話ではないし、どっちも大事じゃないですか。その大事さを大切にしたいと思ってるんです。

―― では最後に、あえて細田さんに「どうすれば良い物語が作れるのか」お聞きしたいのですが。

細田 う~ん。やっぱり「普遍」と言うことかな。もちろん時代時代で共感を得る物語はあると思うんですね。その時代の変化のなかで、そのたびにストーリーは変化すると思うのですけど、その変化に対応していけばいい物語になるかっていうと、今の私の志向からは違うんですよ。

面白さって、多様な価値観のなかで、個人の好き好きって話になりがちですけど、みんなもっとベースで共感できる面白さがあると思うんですよ。普遍の方のストーリーを探すのが重要なのかなと、凄く思いますね。多様性と一過性じゃない、(物語の)強さが非常に重要だと思います。