ニート・ひきこもりが一緒に集うマラソン、1月9日に皇居で
2010年01月01日 07:00 JST

NPO「シゴトノアトリエ」の代表、遠藤一さん。腕には自傷の痕が残るが、お話をするとどんな質問には、ちょっと考えつつ、的確なこたえが却ってきた。

【PJニュース 2010年1月1日】2010年1月9日、皇居でマラソン大会が行われる。ただしこのマラソン大会は普通のマラソン大会とはちょっと違う。「ひきこもり」や「ニート」で悩んでいる人たちやその支援者が中心となって行われるマラソンなのだ。題して「大人もニートも皇居マラソン」。主催は2007年に設立された「NPOシゴトノアトリエ」。現在はNPOと称してはいるものの、認可を受けたわけではなく、任意団体である。

その主催者である遠藤一さん(30歳)にお会いして、お話をお聞きした。

設立は2007年。自身もひきこもりになって自傷行為を繰り返したという遠藤さんの話は、現代の日本の若者が抱えるさまざまな問題をあらためて考えさせるものだった。

遠藤さんはもともと銀行員をしていた父親と専業主婦の母親のあいだに生まれた。はたから見ればごく普通の家庭のまじめな少年時代だった。家庭内の少々のゴタゴタはあったものの、なに不自由無く育った。高校を卒業後、自分で働いて食べて行かなければならない、と思い、家を出て一人暮らしを始めた。しかし困れば親が経済的に助けてくれる、という生活が続き、自分でもなにを目標にして良いのかわからず、気がつけばバイトで出て行く他は一切外に出ない、いわゆる「ひきこもり」になり、自傷行為をくりかえした。やがてバイトもしなくなる生活が続いた。

そんな生活が3年間続いた。わずかでも「外と接触しなければ」という思いで求めた出会いのなかで、自分と同じようになにをしていいかわからず、ひきこもっている仲間と出会った。その仲間がある日、自傷行為や薬の過剰摂取でこの世を去った。遠藤さんはこのとき「とにかくからだが基本だ。なんとかしなければ」と思い、空手道場に入門した。

もともと体が丈夫で運動神経も良かったのだろう、遠藤さんはそれから1年で毎月の試合に出て、10回以上の優勝経験を持つほどになった。2006年には黒帯を取得。自らの経験をもとに、同じような仲間となにかできないか、ということで2007年「シゴトノアトリエ」を立ち上げた。

いま、シゴトノアトリエは、彼自身の空手のキャリアを生かし、自身を「レンタル空手家」として、客先に出向いての空手指導をしている。また、これまでにであった仲間はここで素人にコンピュータの操作を教える「コンピュータおにいちゃん」という事業も行っている。

そしてNPOをはじめた一昨年から「みんなで新年を新しい気持ち出始める」ためにこの「大人もニートも皇居マラソン」を始めた。昨年の大会ではマスコミも取材に来るなど盛況だった。このマラソン大会の特徴はくじ引きで2名が一組になって走り、遅い人にあわせて走る、というところだ。場合によったら歩くみたいなことにもなることがあるそうだが、それは気にしない、とのこと。走りながら語り、走りながら自分を見つめるきかっけをこのマラソン大会でつかもう、ということだ。

PJは遠藤さんの話を聞いていて、先日、自身が取材したこの記事のことを思い出した。「ひきこもりはソフトな虐待」ということばが実感として伝わってくるように、PJには思えたからだ。もちろん、何事もなく平穏に暮らせる、という家族は何事にも代え難い幸福のかたちなのかも知れない。親の仕事は順調で子供は学校の成績がまぁまぁ以上であればよくて、という生活を誰もが思い描くだろう。しかしそういうところで育った「良い子」は、その心になにを持って育つのだろう?本当はそれだけでは「なにもない」人間ができるだけではないのか?それは「人間」なのか?

私たちはなにを大事にして子供を育てているのだろうか?やがて人間として一人立ちして、仕事をして他人とつながり、生きる自信を得て、困難に立ち向かう。その人生を生きていく強さはどうやって得られるのだろう?

なぜひきこもりやニートが社会問題になるほど多いのか?日本の戦後の社会が「なかったこと」にして闇に捨ててきたものを「ニート」や「ひきこもり」が、捨てられてボロボロになった心と体と命をかけて、本当は我々に知らせてくれているのではないか?このシグナルを敏感に受け取ることがなければ、やはりこの日本の社会は内側から崩れていくほか無いのではないか?

本当に大切なこととはなんだろう? 遠藤さんたちは、「ひきこもり」や「ニート」と、そうではないと言われている人たちの間に立って、双方に大きな問題を投げかけているのではないか、とPJは思った。【了】

■関連情報
●「大人もニートも皇居マラソン」 開催概要:

日時: 2010年1月9日(土)
集合場所: JR神田駅南口
参加費用: \350-
参加予定人数: 100人
必要なもの: 運動靴、走れる服装、汗拭きタオル、走り終わった後銭湯に入るのでそのためのタオル等。
雨天の場合: 次週土曜日に開催
連絡先: シゴトノアトリエ(書きホームページに連絡先があります)