「東京で先生になって」不人気の都、異例の追加採用試験
2009年10月22日


小学校の教員採用試験の低倍率に困った東京都がこの秋、東北と九州で、2度目の試験を行う。追加の採用試験は30年ぶりという異例の対応だ。東京の受験倍率は2倍台と低く、都教委は「これでは優秀な人材が確保できない」と嘆く。必死に、先生集めに走る東京都の思いは、地方の学生たちに通じるか。

都はここ数年、教員の大量採用を行っている。60~70年代に第2次ベビーブームで子どもが増え、それにあわせて大量採用した世代が一斉に退職を迎えているためだ。

99年度の公立小学校の教員採用枠は200人、倍率は10.2倍だった。それが09年度は採用枠が1473人に増え、倍率は2.6倍にまで下がっている。10年度も前年並みになりそうという。2回目の採用試験は今月23日(当日消印有効)に受け付けを締め切り、11月15日に仙台市と福岡市で1次試験を行う。

都教委は「優秀な人材を集めるのに、最低3倍の倍率はほしい」と話す。教員採用試験の予備校「東京アカデミー」などによると、09年度の小学校の採用試験は首都圏は2~3倍台と低いのに、秋田22.8倍、青森19.7倍、宮城7.4倍、福岡7.3倍、長崎13.7倍など、東北、九州地方は難関だ。

また、高倍率の地域の受験者は、首都圏と併願するケースが多い。両方とも合格すると、ほとんどが地元を選ぶ。各地の合格発表が出そろうこの時期、東京では、ごっそり200人前後の辞退者が出る。臨時採用の先生で対応するのではなく、「きっちり採用すべきだ」という方針から、2度目の試験を実施することになった。

都教委は「高倍率の地域は、優秀なのに不合格になった学生が残っているはずだ」として、試験場所に東北と九州を選んだ。春の試験の不合格者は対象外にするなど、人材確保に必死だ。

■学生「地元で目指す」

一方、「誘われた」地方の学生たちの反応はどうか。

地元の試験で不合格となった秋田大の女子学生(23)は来年もう一度、「秋田一本」で挑戦する。「先生にはなりたいが、生まれ育った秋田で教師になりたい」

都の採用は知っているが、周りで東京を受験する学生はほとんどいない。「怖いイメージがある。それに、あまりにも倍率が低いので、逆に大丈夫なのかなと不安になる」と二の足を踏む。別の男子学生(21)も「東京の子はみんな塾に通っていそう。秋田人の僕が育った環境と違いすぎる。先月、東京へ遊びに行ったら、3日で疲れた。働く場所とは思えない」。

こんな学生たちに、都教委は「都会の子どもは生意気そうとか、親もうるさそうというイメージを持たれているが、東京といっても都心だけではない。多摩や離島もあり、田舎と環境は変わりませんよ」とアピールしている。

地方の学生は「できれば地元で」という思いが強い。とはいえ、長期的に見れば地方も安穏としてはいられない。

受験会場となる宮城県。試験の実施について、都から連絡はなかった。県教委は「こうした試験が続けば、東京の草刈り場になる。地元の優秀な人材が吸い上げられそうだ」と危機感を募らせる。「こちらは逆に、宮城出身で首都圏の大学に通う学生に『戻ってきて』と積極的にアピールしていきます」

福岡県も同じだ。倍率は8.3倍と高いが、あと5年ほどで福岡にも大量退職・大量採用の時代が来るという。「その時は、私たちも、東京から、優秀な人材を獲得する方法を考えなければならないでしょう」と話した。(中村真理子)