転居先不明で奨学金132億円未回収 検査院「努力を」
2009年10月24日

独立行政法人の日本学生支援機構(旧日本育英会)が扱う奨学金の滞納者が増えている問題で、機構が滞納者の転居先を把握していなかったため、約132億円分が回収できなくなっていたことが23日、会計検査院の調べで分かった。卒業直後の転居から把握していないケースも多く、検査院は機構に対し、滞納者の出身大学と連携するなどして、転居先の把握に努めるよう改善を求めた。

奨学金の滞納増加は、不況による低所得や失業などが背景にあるとされてきたが、検査院は、機構の「努力不足」が一因と指摘した形だ。

奨学生は、「返還誓約書」に住所や電話番号などを書いて機構に提出し、最後に奨学金を受けた月の7カ月後から口座振替の形で返済する。

しかし卒業後、就職を機に転居する奨学生が多く、その後も転勤に伴い転居することもある。機構は転居届の提出を求めているが、出されないケースが多いという。

検査院は、機構が貸し倒れの危険がある「リスク管理債権」とする3カ月以上の滞納約21万4千件、約2253億円分(07年度末現在)を調査。このうち件数・金額ともに6%前後の約1万3千件、約132億8千万円分が転居先が不明で、口座振替の案内書などが「あて先不明」として返送されていた。

また、1年以上の滞納についても、機構が07年度末段階で債権回収会社に委託した8231件の6割に当たる5121件が、電話で連絡が取れなかったという。

07年3月に卒業した奨学生らだけを見ても、機構が5カ月後に送った「返済開始のお知らせ」の1464件があて先不明として返送されていたことも判明した。

このため、滞納額が約2253億円に上った要因に、機構が連絡先を確実に把握できていないことがあると検査院はみている。

検査の過程で、失業や病気療養などで返済猶予の対象となる卒業生も多数判明。この場合、連絡を取って返済猶予の手続きをするように指導すれば滞納残高の減少につながるが、住所を把握していなかったことで、こうした手続きも取られていなかった。

機構は「検査院の指摘は真摯(しんし)に受け止める。自治体に照会するなど転居先把握に努めているが、費用や時間がかかるのも実情だ」などと話している。(前田伸也、中村信義)