フランスでいま、日本アニメ・マンガがアツい理由を直撃!
2009年7月2日~5日の4日間にわたって、フランスはパリ・ノールヴィルパント展示会場において「ジャパンエキスポ 2009」(JAPAN EXPO)が開催された。今年で10周年を迎えるジャパンエキスポは、日本のアニメ、マンガ、ゲーム、ファッションから日本の伝統文化までを、広く扱うファン・イベントとして注目されている。
今回から5回の予定で、このジャパンエキスポの参加企業や来場者に行ったインタビューをお届けする。『オタクジャポニカ』の著者エチエンヌ・バラール氏の同行のもと、出版社や日本のマンガをフランスに広げたキーマン、パリ市内の関連企業への取材も含まれる。第1回は、同イベントの創設者であり、代表を務めるジャン=フランソワ・デュフール氏に、ジャパンエキスポとフランスでの日本文化についてうかがうお話である。
参加者は15万人!
日本ファンが欧州中から集う
デュフール氏
ジャパンエキスポを運営するSEFA EVENTの代表、ジャン=フランソワ・デュフール氏(Jean-Francois Dufour:1974年生まれ)。 撮影:H.Takashima
―― 初めて参加してみて、予想以上の熱気に驚いているのですが、ジャパンエキスポは、いまどのくらいの規模になっているのでしょうか?
ジャン=フランソワ・デュフール氏(以下デュフール) 今年、ジャパンエキスポは10周年を迎えますが、参加者は、4日間で15万人くらいになりそうです。また、出展者は500社で、昨年の380社から大きく伸びています。登録されたプレスは約1000人です。いままではフランス国内のイベントだったわけですが、今年は、ヨーロッパ中からお客さんがかなり来ているのが特徴です。国際的なイベントになってきました。
―― なぜそうなってきたのでしょう?
デュフール ジャパンエキスポが、他に類のないイベントだからではないでしょうか? 専用のホールを使った 16のコンサートがあります。日本からのアーティストも14組来ています。他にもファッションショーや、「CLAMP」のファンの集いがあったり、かなり大きなイベントもあれば、ミニステージもあります。ビデオの上映会も盛り上がっていますし、J-POP専用の部屋などもあります。また、プロフェッショナル向けに、日本の版権とのマッチングを行なうライセンシー・マーケットを始めました。
ジャパンエキスポ看板
会場近くに掲げられた看板には、「CLAMP」や「AKB48」の文字が躍る
―― 版権のマーケットには、日本からは何社くらい参加したのですか?
デュフール 今年のマーケットの登録者は450人で、マンガやアニメだけでなく、グッズやビデオゲームなどあらゆる分野の方々が参加しています。450人のうち、6割くらいは日本の会社で、大手出版社でいえば集英社などが参加しています。
―― ライセンシー・マーケットということだと、映画でいえばカンヌ国際映画祭みたいな感じを目指されるのでしょうか。
デュフール ジャパンエキスポを始める前にも、フランスでは日本のアニメやマンガ関係のイベントが行なわれていました。しかし、日本の文化そのものを、ジャンルを問わず扱うようなイベントはありませんでした。でも、わたしたちは、伝統的な部分も含め、日本のすべてを紹介したかったので、このイベントを始めたのです。そうした流れから、マーケットも出てきたといえますね。
―― ということは、最初から版権のマッチングをやるようなイベントに育てたいと考えていたのですか?
デュフール 正直に言うと、当初は考えていませんでした。もともと、ジャパンエキスポはファン同士で、ボランティア的な精神でやっていたものです。ところが、2002年にビデオ関係の仕事をやった際、日本の会社の人たちと話をしていて、そうしたニーズがあることを感じました。「フランスの消費者は、どんな作品が好きなんですか?」といったことをさかんに聞かれたわけです。日本の側から要望があったわけですね。そこで、パートナーの方々と話をして、版権のマーケットのようなものをやろうということになったわけです。
きかっけは『グレンダイザー』や
『コブラ』、『キャンディ・キャンディ』
―― フランスで、ここまで日本文化が受ける理由というのは何だとお考えですか?
デュフール いま、日本のマンガに出てくるサムライや忍者の話は、フランスの若者にかなり人気があります。古くからあるフランスのマンガ「バンド・デシネ」などには、若者に受ける作品があまりありません。なぜか、なかなか作れなかった。そんなところに、日本のマンガでアクション性の高いものが出てきました。
日本のマンガやアニメには、「友情」とか「成長」とか「努力」とか、いずれも自分もヒーローになるというポジティブ志向があります。また、日本のマンガやアニメはシナリオにしてもデザイン的なものにしてもグレードが高い。だから、受け入れられているのだと思います。
バンド・デシネは確かにフルカラーで美しいのですが、値段が高く、同じシリーズでも2~3年に1回しか出ないので、忘れられてしまいます。日本のマンガは、モノクロで200ページくらいのものが3ヵ月おきに出てきます。頻繁に出てきて、それが読者の生活のサイクルのなかにうまく入ってくるんです。そして、最終的には1000ページ以上に相当する十分な楽しみを得られ、そうした中で、主人公に共感できるようになります。それが、日本のマンガの人気の理由ではないでしょうか。
―― アメリカンコミックより、日本のマンガのほうが親和性が高いのですか?
デュフール アメコミと比較していえば、いま、フランスのバンド・デシネを含めたマンガ市場全体のうち、だいたい40%を日本のマンガが占めるまでになっています。アメコミをもとにした実写映画もヒットしていますが、映画ではそうでも、マンガに関してはそこまでの人気はないんです。やはり、フランスの若者に対するメッセージにはなっていない。ズレがあるのですね。
―― ご自身が、日本のマンガやアニメに興味をお持ちになったきっかけは?
デュフール わたしの世代は、『グレンダイザー』を見て育った世代なんです。画期的なアニメだったわけで、学校で、みんなで話題にしていたものです。その後は、『コブラ』や『キャンディ・キャンディ』などを見て、ファンとして目覚めていきました(1978~79年頃にかけて、フランスの公共放送にて放送された)。
コスプレ女性たち
会場の最寄り駅には、すでに気合いの入ったコスプレをした女性たちも多数
―― 当時から、日本のアニメの魅力というものを感じていたんですね。
デュフール 1988年に、日本アニメの第2波がやってきます。「クラブ・ドロテ」という番組が毎週日曜日にあって、そこで『ドラゴンボール』や『聖闘士星矢』、『北斗の拳』などが放送され、日本アニメに目覚めた世代もいるわけです。
わたし自身についていえば、もともとバンド・デシネが好きで、たくさん読んでいたのですが、テレビで放送されていたアニメが日本から来たものだと知ったときは、ものすごいショックを受けました。それはポジティブなショックで、それから『アキラ』や『ドラゴンボール』などのマンガもフランス国内で売られるようになり、それを読んで日本に対する興味がわいてきたのです。それから、『めぞん一刻』に日本の日常的な生活が描かれていることを面白いと感じ、惹かれるようになりました。マンガは、日本文化のひとつの窓のようなものではないでしょうか。
―― 日本に来られたことはありますか?
デュフール 1999年に初めて日本に行って、3週間くらいあちこちを周りました。そのときに、マンガだけとかアニメだけのイベントではもの足らないと思ったんです。パートナーと一緒に、やるのだったら伝統的文化も含め、いろいろ入れるべきだと思ったのです。
そして1999年に、初めてジャパンエキスポを開催しました。当時は2400人くらいしか来場者がなかった。それが、3年で4万人くらいになったのです。会場の規模もあり、これが限界かなぁと思っていたところに、ちょうどフランスで日本の人気がどんどん上がってきました。ジャパンエキスポは、それとともに成長してきたと言えます。わたし自身は、2002年に日本のアニメDVDを出す会社に勤め、2004年にはマンガ出版社を作るなどしていました。ですが、ジャパンエキスポで手一杯になったので、2007年にほかの事業は他人に譲り、ジャパンエキスポの開催を中心にやっています。
YOSHIKIを、AKB48を追って
日本からも観客がやってくる!
―― さきほど、フランス以外の国からも来場者が増えているということでしたが、どのくらいの人たちが国外から参加されているのですか?
パンフレット
来場者に配られるパンフレット。中央には大きく10周年の文字
デュフール 海外からの来場者が増えているというのは、2~3年前から実感していました。日本からのゲストの質が高くなってきて、ジャパンエキスポに来なければ、二度と見れないというようなことが起きてきたからです。フランスの一般の人たちだけでなく、ヨーロッパ中から日本のマンガやアニメのファンが来るようになりました。
4日間のイベントで、最初の入場券さえ買えば(注:4日間パスで33ユーロ=約4400円)、コンサートもすべて無料で見られます。商品を買う以外は、すべて無料で楽しめるというのも魅力なのではないでしょうか。2008年では、12%がフランス語圏外の来場者でした。
日本でも類のないイベントなので、日本からのお客さんも増えています。2007年にはYOSHIKIがやってきて、そのときには日本のファンたちがフランスまで大勢やってきました。ここじゃないと、YOSHIKIに会えないというわけです。今回も、CLAMPやAKB48が出ていますから、日本のファンにも見逃せないイベントになっています。その点では、ヨーロッパでも最先端に立っているのではないかと思います。
そうしたことを考えると、今後はフランスで人気のある日本のアーティストだけでなく、他のヨーロッパの国で人気のあるアーティストも呼んでいかなければならないと思っています。いまよりもさらに豪華なゲストを呼びたいですね。いまはマンガやアニメに偏っていますが、もっとファッションや音楽、ビデオゲームなど、まんべんなくバランスのとれた内容にしたいと思っています。たとえば、ゲームに関して、新作のゲームをフランス初とか世界初という形で披露したりとか、作家のサイン会を増やしたりなどですね。
―― ジャパンエキスポに課題があるとしたら何でしょうか?
デュフール ジャパンエキスポは、いまフランス国内のイベントではトップ10の規模に入ってしまいました。朝6時には、会場の入り口には参加者が並び始めます。オープンニングのときには2万人の人たちが並んで待っているわけです。そうした人たちに、どう安全に参加してもらうかというのは課題といえます。
それから、もうひとつ課題としてあげるとすれば、日本の関係企業とのコミュニケーションの問題があります。ビジネスのやり方の違いなどもあり、うまくコミュニケーションをとっていかなければならないと実感しています。