昼間は中小企業のサラリーマン、夜はガソリンスタンドのアルバイトなど、昼夜を問わず二つ以上の仕事を掛け持ちしながら、子供の教育費や生活費をやっとのことでまかなっている50代の家長。早朝から深夜まで小型トラックを運転しながら、大型マンションなどでフライドチキンを販売する40代の夫婦。事業に失敗した夫と別れた後、二人の子供を育てながら、「露店商や電信柱のビラはがしなど、やったことのない仕事はない」というシングルマザー。誰よりも必死で働いているのに貧しさから抜け出せない「ワーキングプア」と呼ばれる勤労貧困層が、韓国に300万人いるといわれている。仕事に就く能力も意思もあり、実際に厳しい仕事やつらい仕事も一生懸命にこなしているものの、低賃金や相次ぐ失業、休職などで貯蓄ができない「赤字人生」を余儀なくされている。
彼らにとっては「いつか他人と同じように生活が楽になる」という程度の希望を持つことさえも難しい。歯を食いしばって毎日必死に働いても、1カ月に数万ウォン(1万ウォン=約760円)しか貯蓄ができないようでは子供たちの教育費もまともに支払うことができず、またマイホームを購入することなど夢のまた夢だ。現在従事している非正社員としての仕事を失ったり、あるいは家族の誰かが病気にでもなれば、絶対貧困へと一気に転落するしかない。まさに崖っぷちの人生だ。
以前なら「両親が貧しくても、子供たちはもっとましな人生を送ることができる」という希望や確信を誰もが持っていた。本人が優秀ならば、塾や家庭教師に頼ることなく一流大学に進学することもできた。しかし最近は、「トンビがタカを生む」ということわざも昔話となってしまった。大学進学者の親の平均月収をみると、ソウルなど首都圏の四年制大学が246万ウォン(約18万7000円)、地方の四年制が189万ウォン(約14万4000円)、二年制の短期大学や専門学校が131万ウォン(約10万円)となっている。つまり親の所得が子供の進路や将来に大きな影響を及ぼす世の中になっているということだ。教育による地位向上や生活改善のチャンスも失われ、社会的身分や富による差別が子や孫にまで受け継がれるような、新たなカースト制度が根を下ろし始めている。
韓国社会でワーキングプア問題が表面化し始めたのは、アジア通貨危機直後からだ。相次ぐ企業のリストラや倒産などにより、100万人以上の失業者が街中にあふれ出した。その多くは飲食店などの自営業を始めたが、直後に再び訪れたカード不良債権騒動や最近の世界的な金融危機の影響で、それらの小さな事業もほとんどが失敗した。彼らの多くは現在、臨時職や日雇い職などに従事している。企業も最近は解雇が難しい正社員を大幅に減らして非正社員を増やしているため、安定した職場の絶対数が減少していることも、ワーキングプア問題の大きな原因だ。
朝鮮日報/朝鮮日報日本語版