Archive for 2009年7月20日


「メディアにおカネは使いません」 15歳の英高校生の報告が反響
2009.7.14 18:27

【ロンドン=木村正人】「メディアの必要性は増しているが、おカネは使いません」-。ロンドンの高校に通うごく普通の男子生徒(15)による、10代の携帯電話やインターネットの使用実態をまとめた報告書が、ファンド・マネジャーや情報通信企業のトップの間で大きな反響を呼んでいる。

この生徒は、学校の休暇を利用して米金融グループ、モルガン・スタンレー欧州調査部門で研修したマシュー・ロブソン君。

同社が研修生に「10代の子供たちがどんなメディアに親しんでいるか」についてまとめさせた。ロブソン君の報告書が洞察力に富んでいたため、投資家向けレターに掲載したところ、普段の5~6倍の問い合わせがあったという。

報告書によると、10代はメディアを友人と会話を交わす手段とみなして、インターネットなどに接する時間を増やしているが、おカネを使おうとは思っていない。有料の新聞を読んでいる10代は皆無で、値段の安い大衆紙か、無料紙で十分と考えている。テレビの視聴時間も減少、広告をわずらわしく思っている。

99%が携帯電話を所有しているが、高額機種は不人気で、テキスト送信と通話機能を主に使用。音楽も有料ダウンロードサイト、iTuneは使わずに、違法な無料サイトから取り込むのが一般的だ。任天堂のゲーム機「Wii」は大人気で、長時間にわたってオンラインで友人と無料の会話を楽しんでいる。最近、話題の米コミュニケーション・サービス「Twitter」は携帯電話で文字を送るのにおカネがかかるので10代は使わないという。

無料のメディアをうまく使いこなす一方で、財布のヒモを締める10代に、新聞やテレビなどメディアの経営者は頭が痛いようだ。

【外信コラム】イタリア便り 結婚より同棲
2009.7.5 03:46

昔、「結婚は人生の墓場である」と喝破した賢者がいたそうだが、こんな言葉は昔の賢者より利口な今の若者たちには通用しない。

「結婚とは生涯破棄できない男女の神聖なる契約」と教えるカトリックが社会に強い影響力を持つイタリアでも、離婚が法律上不可能に近かった時代ならともかく、現在ではこんな言葉は過去の遺物である。

今のように、法的に離婚が簡単な時代になると「結婚してうまくいかなければ離婚すればよい」し、もっと賢明な若者たちは「結婚生活がうまくいくかどうか試しに同棲(どうせい)してみよう」と考える。「同棲」の言葉に反モラル的ニュアンスをくみ取るような人は残念ながら「反動」とか「時代錯誤」とののしられかねない。

実際、最近の統計によると、男女が初めて一緒になる形態は、米国では50.3%が、英・仏・独およびスカンディナビア諸国では50%が「結婚」ではなく「同棲」であるという。

保守的な国と考えられてきたイタリアでも、現在同棲中の男女は63万人と10年前の倍だ。

この結果、2006年の結婚数は人口1000人当たり4.1件とヨーロッパ平均の4.9件をも下回ってしまった。

「同棲」が女性にとって不利と思われたのは昔のことで、女性の3人に1人は「結婚より同棲」と答え、2015年には同棲件数が結婚件数を上回ると推定される。

今や昔の賢者は失格だ。(坂本鉄男)

学校のICT、学力向上や非デジタルネイティブの子どもたちへのIT教育にも期待
2009年7月17日

今年度補正予算に「学校ICT(情報通信技術)環境整備の事業費総額4000億円」が組み込まれた。ICT活用による学力向上を目的とした、国をあげた大規模な取り組みだ。公立の小・中・高・特別支援学校数3万7050校で単純に割ると1校あたり1100万円がICT整備費用として使える。学校のICT 化により、どんなことができるのだろうか。

●学力向上と授業の効率化を目指す

これまでの公立学校のICTは、パソコンを触り、ソフトを操作することを中心とした、操作に慣れる授業という性格が強かったが、今後は、パソコンに慣れるだけでなく、各種IT機器を活用することで、授業をわかりやすくしていく方向に進化していきそうだ。つまり、ICTを活用して授業・教育を効率化させ、学力向上にむすびつける、という狙いだ。

わかりやすい授業を行い、学力を向上させる方法として注目されているのが、プロジェクターや電子黒板の活用。写真や図表を大画面で映したり、視覚的にインパクトを与えて集中力を高める効果が期待できるという。また、教師と児童・生徒のパソコンをネットワークでつなぎ、授業中にネットワーク上に意見を記入するといったスタイルもある。

あるパソコンメーカーには、タッチパネルを搭載したデスクトップパソコンを導入したいという特別支援学校の教師からの声が寄せられた。キーボードやマウスに抵抗を持つ子どもたちのために、タッチパネルによる操作に魅力を感じたというのだ。

タッチパネルを活用した学習では、インテルと内田洋行が、インテルの教育用PC「インテルクラスメイトPC」を使い、漢字の書き取り、計算問題の反復学習などの実験を進めているほか、デルが今年5月から、教育向けに設計したタッチパネル搭載のノートPCを5月に販売開始しているなど、システムを供給するメーカーやIT企業の動きは活発化してきている。手軽に操作できるタッチパネルやタブレット PCは、教育用パソコンに欠かせない機能になっていくといえそうだ。

今回の「学校ICT環境の整備」では、電子黒板やパソコンなどハードウェアの導入が脚光を浴びているが、ソフトウェアの整備も対象になる。今や企業の会計は、ソフトを使うのが当たり前だが、いまだに手書きの帳簿を使って授業を行う商業高校もあるという。ハードウェアを生かすために不可欠なのがソフトウェア。高校のICT教育では、社会で役立つ実務教育として、ソフトウェアの活用が一層求められる。

●パソコンやネットに触れるということも重要

そのほか学校のICT化は、学力向上という目的だけでなく、家庭にIT環境がない子どもたちに、パソコン、インターネットなどに触れる機会を増やすという側面もある。パソコンの世帯普及率は07年3月に7割を超え、09年3月時点では73.2%(内閣府の調べ)。もの心が付いた時には、家庭にパソコンがあったという子どもはそれほど珍しくないだろう。

こういった「デジタルネイティブ」と呼ばれる子どもたちがいる一方で、児童養護施設で生活する子どもたちは、施設に充実したネットワーク環境が整っていない場合が多く、パソコンやインターネットに触れる機会が少ない。また、パソコンの世帯普及率は7割を超えたといっても、3割弱の家庭にはパソコンがない。学校のICT化は、この3割弱の家庭の子どもたちや、施設から学校に通う子どもたちなどに、家庭環境に関わらず、IT教育をする重要な役割だ。

一方で、多くの問題点も指摘されている。授業の効率化を目指す学校のICT推進により、かえって複雑になり、副作用が出ないか、不安を抱く保護者も多い。子どもたちの情報モラル教育についても、不十分だと問題視されている。

文章を書くのではなく、パソコンを使って漢字を変換しながら打ち込んでいくという書き方が、子どものころから当たり前になってしまうと、パソコンに頼る思考回路になってしまわないか、と危惧する声もある。漢字や英単語は、何度もノートに書いて覚えたほうがいいのかもしれない。

しかし、世の中がIT化していくなかで、教育のIT化を置き去りにしておくわけにはいかない。子どもたちや保護者が安心でき、信頼のおけるIT教育、また、時代に沿った格差のないIT教育が必要だ。そのなかで、誰のためにどんな目的で教育のIT化を進め、何をゴールにすえるのか、しっかりとした理念が求められている。(BCN・田沢理恵)

変革の芽:オバマのアメリカ/1 過熱する中絶論争

◇反対派が医師を射殺--大統領が「怒りの声明」

【ウィチタ(米カンザス州)吉富裕倫、ワシントン及川正也】米国の中西部カンザス州ウィチタで5月末、後期妊娠の中絶手術を行っていたジョージ・ティラー医師(67)が射殺された事件が、米社会に波紋を残している。「変革」を掲げ、人工妊娠中絶を基本的に容認するオバマ米大統領が誕生したことで、保守的な反対派は過敏に反応、中絶や同性婚をめぐる論争は一層熱を帯び始めた。自由かつ進歩的な半面、宗教心があつく、保守的な米社会の底流に走る断層と変革の芽を追った。

医師は5月31日、妻と通う教会の日曜礼拝で、案内係を務めていた際、射殺された。直後に目撃者の通報により、中絶反対の活動をしていた運送会社員、スコット・ローダー容疑者(51)が逮捕された。

「いかに意見の相違が深くとも、凶悪な暴力行為では解決できない」。事件発生から数時間後、オバマ大統領は怒りを込めた声明を発表した。ホルダー司法長官も、即座に全米の主要な中絶関連施設の警備強化を連邦捜査官に指示した。

オバマ政権の異例ともいえる対応の素早さは、政権にとって事件の衝撃がいかに大きいかを物語った。

カンザス州では妊娠第3期(28週以降)の中絶について、実施しないと「母体に回復できない障害を残す」などの場合に限り認めている。ティラー医師も妊娠後期の中絶を手掛け、死が確実な胎児を宿した母親が医師を頼って全米から訪れていた。

6月6日のティラー氏の葬儀では反対、賛成両派が動員をかけ、会場周辺では反対派が「神が殺人者を送った」と書いたプラカードを掲げ、賛成派は遺族への嫌がらせを防ぐため歩道に並び、対峙(たいじ)した。

今月7日、カンザス州セジュウィック郡拘置所の接見室。ガラス窓の向こうで通話機を通してローダー容疑者が、毎日新聞のインタビューに答えた。

「社会の考えでは有罪でも、神の前では許される」「これで彼(ティラー医師)はもう後期中絶手術をできなくなる」。殺害容疑の認否には答えずに、医師を逆に「虐殺者」「殺人者」に例えた。

さらに、米大統領選について「(中絶容認の)オバマ以外の人が当選した方がよかった」と話した。

◇中絶賛否にらみ合い

米中西部カンザス州ウィチタで中絶専門のジョージ・ティラー医師(67)を射殺したとして訴追されたスコット・ローダー容疑者(51)は、毎日新聞のインタビューに、医師こそ「殺人者だ」と糾弾した。そして「何者かが教室で子供たちを射殺すれば、警備員は力ずくでそいつを止めるだろう」と語った。

AP通信によると、ローダー容疑者はもともと妻と息子の3人暮らしで、封筒工場に勤めたが、税金を否定する反政府組織とかかわり家を出た。その後、中絶反対活動に加わり、ティラー医師が後期中絶で州の規制違反に問われた裁判の傍聴もしていた。

一方のティラー医師は、元米海軍航空医官で、亡き父のクリニックを引き継いだ。当初、父が中絶を施していたことを知り戸惑ったが、「深刻な胎児の異常が診断できた場合、女性が選ぶ権利を持つことは重要だ」と重要性を認識、信念を持って仕事を続けていた。

「要塞(ようさい)クリニック」といわれる仕事場は、道路側に窓がなく、駐車場側の窓ガラスは防弾ガラスで、防犯カメラも装備。86年に入り口に爆弾が仕掛けられ、93年には中絶反対派の女性に医師が襲撃され両腕を負傷した。

中絶反対派は毎日、クリニックの駐車場入り口で患者に中絶しないよう説得。99年には別の反対グループが隣にクリニックを開設、死が避けられない胎児のための周産期ホスピスを始め、米国を二分する中絶論議の最前線となってきた。医師射殺事件後、遺族はクリニックを閉鎖した。

中絶をめぐる支持派と反対派の「内戦」は、中絶を女性の権利として認めた73年の連邦最高裁判決を機に激化。キリスト教に基づき生命倫理を説く保守派と、女性擁護を主張するリベラル派が対立する米社会の一大論点となっている。

オバマ政権にとって衝撃だったのは、中絶反対派のブッシュ政権下では一件もなかった中絶医の殺人事件が、就任した途端、発生したことだ。オバマ大統領は「史上最も強く中絶を支持する大統領」とも指摘される。容認派の大統領への反発が暴力の連鎖を生みかねないとの警戒感がある。

中絶支持団体の全米中絶連盟によると、93年にフロリダ州で中絶医が初めて殺害されて以来、今回を含めて中絶医が犠牲になった殺人事件は8件発生しているが、今回を除けばいずれも民主党のクリントン政権下だ。

中絶反対派からは「殺人は犯罪だが、ティラー医師は報いを受けた」(フェルペスローパー弁護士)との声も聞かれている。

6月6日の葬儀で現場に駆け付けたティラー医師支持の「女性のための全国組織」カンザス支部コーディネーターのマーラ・パトリックさんは「中絶反対のブッシュ大統領から中絶容認のオバマ大統領に代わって『中絶戦争』はもっと激しくなるかもしれない」と憂えた。

米社会の分断は一層深まる岐路にさしかかっている。【米カンザス州ウィチタ吉富裕倫】