民主党、子供手当の経済分析=第一生命経済研 熊野氏
2009年 07月 22日 16:26 JST
民主党の経済政策が注目されている。政権交代ということになれば、民主党の政策が実行されるからである。そこで、民主党の政策プランのうち、代表的な子ども手当について経済分析をしてみた。将来、子ども手当で教育費が賄われると予想すれば、家計はどう行動するだろうか。教育費に備える貯蓄が減り、教育費を稼ぐために働いていた配偶者は就労を手控えるだろう。
<月額2.6万円の手厚さ>
民主党の主要政策である「子ども手当」。子供が生まれてから義務教育期間である中学卒業まで、1人当たり月額2.6万円(年額31.2万円)が支給される(初年度月1.3万円)。民主党の方針では、中学卒業後も国公立高校の授業料相当額が助成され、大学生にも無利子奨学金などが援助されるので、家計の教育費用がかなり広範囲で補助されるかたちになる。
まず始めに、なぜ子ども手当2.6万円という数字が現れたのかを考えると、1世帯当たりの教育費に相当する金額を援助するという発想があると推察される。総務省「家計調査」に基づく教育関連費は、最近こそ1世帯当たり2.0万円(2008年、2人以上世帯)となっているが、過去の時系列データをみると1992─98年には2.5万円前後であった。ただ、2.0万円(2008年)は子供のいない世帯を含めた加重平均値なので、1人当たりの子供の教育負担に変換して考える必要がある。18歳未満の子供人数が0.64人なので、2.0万円を加重平均の人数で割り戻すと18歳未満1人当たり3.1万円となる。こうした一連のデータ確認をしてみると、子供が居れば1人当たり2.6万円という根拠は、それほど正確に計測されたものではなさそうである。
視点を変えて1人当たり毎月2.6万円という子ども手当が支給されたならば、どの年齢、どの所得階層の教育関連費用が全額カバーされるだろうか。「家計調査」では、世帯主年齢別には、加重平均の人数で割り戻した1人当たり教育関連費が2.6万円以下になるのは、45歳未満の年代の範囲内になっていた。推察すると、子供が中学・高校・大学と大きくなるほどに負担が加速する下で、だいたい中学生になる直前までは月2.6万円(子供12歳、夫42歳、妻40歳)でカバーされるようだ。年収別では、世帯の経常収入が月40万円以下のクラスター(全体の61.3%、世帯2人以上の勤労者)の世帯の教育関連費用が月2.6万円で収まるという結果になっていた。これらの結果からは、月額2.6万円の金額はかなり手厚い印象になる。
<家計貯蓄率と若年就業率は低下していく作用>
次に、こうした家計の教育関連費用が公的支援で肩代わりされると何が起こりそうかという作用を考えてみたい。思想としては、これまでの福祉制度は、就労を迎える前の未成年者よりも、就労期を終えた高齢者を社会保険で支援することに軸足が置かれてきた。一方、家庭が子供を養育するときは、教育の義務的範囲は支援しても、それ以上のレベルの教育や育児の基本部分は自助が求められてきた。子ども手当が導入されると、社会的に少子高齢化を是正する政策目標が重視され、政府が支援する子育てに介入する範囲が一気に拡大するというバランスの変化が起こるだろう。
ここで注目したいのは、家計の将来負担に対する備えが、私的貯蓄もしくは公的貯蓄によって支えられてきたという関係である。長い間、日本の家計貯蓄率(私的貯蓄)の高さを説明する要因として、公的貯蓄の少なさと裏腹の関係にあると指摘されてきた。仮に子ども手当が持続的に実行され、子育てコストが公的に支援されるようになると、今まで家計が私的貯蓄で支えてきた教育資金などが少なくて済むようになる。すると、家計は将来消費(教育費)への備えを手控える分、能動的に家計貯蓄率を低下させる可能性がある。この貯蓄率低下に反応して、銀行・保険会社では、これまで資金流入していた部分が減ってしまうことが予想される。
もうひとつ重要なのは、子育て費用を自己負担する作用が解消されると、配偶者の就労行動も変化してしまう影響である。これまでは、配偶者が働く動機として、子供の教育費用を賄うという目的が大きく存在していたと考えられる。子育て負担(*注)が減れば、若年配偶者の就労動機が低下して、労働供給が減る結果を導くと考えられる。
<子ども手当にはバラマキ防止措置が必要>
日本国憲法により義務教育は無償と定められている。子ども手当は、それ以上の範囲を現金支給という自由度の高いかたちで支援するものである。すでに義務教育の無償化は保証されているので、子ども手当がカバーするのはそれを越える範囲になる。その場合、子ども手当の使途に制限をつけないと、教育費用とは関係ない使途に使われ、手当ての趣旨が曖昧になる。そうした曖昧さは、子供のいない世帯がなぜ減税を受けられないかという批判を生むことになるだろう。現金給付という公的支援の方式は、厳格さが低下する点において問題がある。
そうした弊害を防止するには、必需的な財サービスの購入に関して、購買者の側ではなく、供給者の側に価格補助を設けた方が厳格性を保てる。公的支援を、塾・家庭教師費用、子供の衣料費・食料費などの使途を特定して、価格補助ないし、経費申請を認めることが、厳格性を保つためのセカンドベストの方法になるだろう。
もう一つ、公平性の観点からみれば、高所得層にまでも支援を必要とするかという問題点もある。高所得者は、子供のために必要最低限の教育費用をかけられないことに困っていない。
筆者は、バラマキ批判に配慮するために、子供手当には支給対象の所得制限を課すのが当然だと考えるし、そのための技術的な整備も不可欠だとみる。子育て支援によって、低所得層への経済的ハンディを解消させるという意味合いを強めるのならば、現金支給ではなく、税額控除のかたちで経費申請を認めることが最も望ましい方法であろう。
<教育費をサポートする根拠を確認する>
前述したように、誰のための教育費のサポートかという支援の範囲を明確にすることは極めて重要な論点である。義務教育の範囲内ですべての教育費をサポートするのは、国民の権利だとしても、それ以上の範囲でサポートすることには公平性の観点で問題が生じる。それは、経済的格差を背景にした教育内容の格差が助長される可能性があるからだ。専門家の間ではよく知られている事実であるが、教育費ほど必需的ではない支出はない。「家計調査」(2008年)では、所得に対する財サービス別の支出弾性値が最も高いのは補助教育費(4.22)であり、教育費全体(3.20)でも他項目よりも高いことが確認できる。支出弾性値とは、消費支出が1%増えたときに、各費目が何%増減するかという係数で、支出弾性値が1以上の項目は選択的支出(奢侈品)に分類される。
「教育費は必需品」と直感的に述べる人が多い背景には、子供の教育に集中的にお金をかけたいという願望が強くそこに表われている。つまり、経済的に余裕のある人にまで現金支給すると、その資金がより高級な教育サービスへと向かう競争を促す可能性がある。限られた教育機会に対し、経済的余裕のない人と、余裕のある人が同額の現金支給を受けて競争したならば、経済的余裕のない人がその立場を改善できない問題が残る。裕福な人ほど高額の教育サービスを受けられるという傾向が、公的な教育支援を通じて社会的に許容できない範囲まで広がらないよう、十分配慮することは必要だろう。
<消費刺激効果>
家計の教育費に対する経済的負担を、政府が肩代わりする措置は、公平性の観点を無視して考えると、消費刺激効果は相対的に大きいとみることができる。なぜならば、2つのルートで家計の需要シフトが起こると予想されるからである。1つは、子供の教育費に優先的に割り当ててきた資金が自由になると、その資金はよく似た性格の消費使途に使われると考えられるからだ。
教育費は前述したように、支出弾性値が高い消費費目である。ある家計が限られた所得を、優先的に教育費に回している場合、支出弾性値の高い別の消費支出が潜在的に我慢されていると考えられる。もしも、そうならば、教育負担に対して、現金支給や無償化・助成が行われることで、家計が我慢していた別の支出弾性値の高い使途に新たに資金が回ることになる。例えば、子供のための使途として、塾・習い事の月謝や、受験費用に回ることがあり得る。別の分野では身の回り用品、洋服・家具・外食なども弾性値の高い支出である。
もう1つのルートは、家計が将来子供のために負担しなくてはならない支出の減少を予想して、現在消費を増やす作用である。子供手当は、異時点間の消費・貯蓄選択の配分を見直しさせて、現在消費を増やす(使途を特定せず全般的に)。家計貯蓄率が低下することは、消費刺激と通じる作用である。
*注:子ども手当の財源確保のために配偶者控除が廃止された場合は、その分、労働供給が減る作用が減殺される。配偶者控除によって増税される所得税・地方税は、概ね年間7.1万円と、子供手当年間31.2万円の範囲内。
2009.7.21 18:16
教育現場が抱える問題に対する生徒指導の方法などをまとめた基本書「生徒指導提要(仮称)」の作成を検討している文部科学省は21日、専門家らによる協議会で、この基本書に盛り込む項目案を提出した。近年、社会問題となっているインターネットによるいじめへの対応策が、項目に盛り込まれたのが特徴。生徒指導用の基本書が作成されるのは44年ぶりだという。
項目案ではこれまでの基本書にくわえ、携帯電話・インターネットにかかわる課題▽児童虐待への対応▽いじめへの対応▽命の教育と自殺の防止▽発達障害への対応-など計28項目が新たにあげられた。協議会でこの項目案について議論され、平成22年3月までの基本書作成を目指す。
基本書をめぐっては旧文部省が昭和40年、少年非行の増加を受けて教員向けに「生徒指導の手引き」を作成。校内暴力が問題となった昭和56年に一度、改訂されたが、それ以降は改訂されず、現代の教育問題に対応していないとして大きな課題となっていた。